月探査に関するこれまでの
我が国の取組と海外の動向
資料3
平成21年8月4日
1
【目次】
1.月とはどのようなものか
2.これまでの月探査に関する取組
3.月・惑星探査に関する海外の主な動向
• 大きさ:半径 約1700 km
- 長さで地球(半径 約6400 km)の1/4。体積で地球の約1/50。
•質量:7.35×1022kg、密度:3.34g/cm3
- 質量は地球の約80分の1、密度は地球の約60%で軽い。
• 月までの距離:約38万km(公転軌道は、近地点36万km、遠地点41万kmの楕円軌道)
- 光の速さで約1.3秒。
太陽と地球との距離:1.5億km
(光の速さで、8分20秒)
【太陽】
【地球】
【月】
半径:約 70万 km
(地球の約109倍)
質量:1.99×1030 kg
(地球の約33万倍)
半径:約 6400 km
質量:5.97×1024 kg
半径:約 1700 km
(地球の1/4)
質量:7.35×1022 kg
(地球の約80分の1)
地球と月との距離:38万km
(光の速さで、約1.3秒)
2
水星
金星
地球
木星
火星
太陽
1
1.5
0.4
0.7
5.2
月
1/400
太陽系の惑星(水星、金星、地球、火星、木星・・・)と月の位置関係
1.月とはどのようなものか(1/4)
(1)月に関する基礎データ(1/3)
3
• 重力:1.62m/s2
- 地球の重力の1/6。
• 公転周期、自転周期:27.3日
- 公転周期と自転周期が同じため、いつも地球に同じ面を向けている。
- 昼が約15日、夜が約15日続く。
• 自転軸の傾き(太陽方向に対して):1.6度
- 地球の23.4度に対して小さく、季節変化はほとんどない。
- 極域のクレータの底では、全く太陽があたらない場所がある。
また、極域の高地では、ほとんど太陽が沈まない場所もある。
• 大気:なし
- 真空(昼間は 10-7 Pa(10-9 Torr)、夜間は 10-10 Pa(10-12 Torr))
(なお、地球上の大気圧は、1気圧 = 105 Pa(760 Torr))
• 表面温度:大気がないため、昼夜の温度差が激しい。
- 赤道域の表面温度は120℃~-170℃、
極域では-40℃~-60℃(ただし、極域クレータの底の永久日陰は-230℃)
1.月とはどのようなものか(2/4)
(1)月に関する基礎データ(2/3)
4
• 磁場:ほとんどなし
- 大気も磁場も無いため、強い宇宙放射線環境
月面の宇宙放射線は100~500mSv/年と推定。推定値に幅があり実際の測定が必要。
(※
地球上では、磁場と大気により宇宙放射線は減衰し、地上で2.4mSv/年)
• 表面の状況: - 月の表側は、比較的なだらかな地形が多く、その約35%が黒っぽい岩石で覆われてい
る。この部分は玄武岩でできた「海」と呼ばれる地形であり、月の内部からしみ出し
た溶岩がなだらかに固まってできた地形。
- 月の裏側には、「海」はほとんど見られず、白っぽい斜長岩からなる「高地」と呼ば
れる険しい地形が多く存在。月の最高地点(高度:10750m)、最低地点(高度:
-9060m)とも、いずれも月の裏側にある。
- 宇宙からの隕石や微量粒子が大気との摩擦で燃え尽きないため、隕石衝突により表面
に無数のクレータがある。
- 月面のほとんど全面を、隕石衝突の際に飛び散った非常に細かい砂のような表土(レ
ゴリス)が覆っている。レゴリスは細かく目が詰まって堆積しており、掘削が困難。
レゴリスの平均粒径は約70ミクロン。(※
鳥取砂丘の砂の平均粒径は、200~
300ミクロン程度)
真空であるため帯電しやすく、機器や宇宙服に付着して問題を生じる。
• 月の年齢:
- 月の誕生は、アポロが持ち帰った「創世記の石」(月面の高地の地殻である斜長石)
の年代測定などにより、約46億年前と言われている。(太陽、地球の誕生も約46億
年前と言われている)
• その他:
- 最大マグニチュード3~4の地震(月震)があるが、原因は未解明。
1.月とはどのようなものか(3/4)
(1)月に関する基礎データ(3/3)
5
【これら全ての謎は、月の科学的解明を目指す上での
もっとも根源的な謎「月の起源と進化の謎」に通ずる】
○月の起源?!-月はどのようにしてできたのか?
→有力説:原始の地球に火星サイズの原始の惑星
が衝突して月ができた
⇒「ジャイアントインパクト説」
○月の進化?!-月が今の姿になった理由は?
○月はなぜ、これほど大きいのか
(地球に対する月の大きさの比率は、他の
惑星の衛星と比較してとても大きい。月
は他の衛星と異なる起源を持つのか)
月の半径:
1700km
地球の半径: 6400km
★月は地球の1/4の
大きさ
火星とその衛星フォボス
フォボスの半径:
13×11×9 km
火星の半径: 3400km
★フォボスは火星の
1/100の大きさ
○月の内部構造はどうなっているか
(地球と同じような金属でできた核(コア)がある
のか。あるとしてもどのくらいの大きさか。核と思
われる部分の大きさの推定値も様々で定説がない)
地球の核(半径)/ 地球の半径: 3500 / 6400 km
月の核(半径)/ 月の半径: 250-450? / 1700 km
○マグマの海はどんな様子だったか
(月が誕生して間もない約46億年前には、
マグマの海があったと言われているが、
実際にはどのような様子であったか)
○月の磁場はなぜ無くなったのか
(地球と同じように、月にもかつて磁場が
あったと考えられているが、現在はほと
んどない。どうしてなくなったのか)
zアポロ計画で持ち帰った月の石を調
べるとわずかに磁場があることがわ
かった。
z強い残留磁場がローカルに見られる。
z現在の月磁場は地球の10万分の1
○月の表側と裏側はなぜこんなに違うのか
(月はいつも地球に同じ面(表側)を見せている。表側
は比較的なだらかな海と呼ばれる地形が多く、逆に裏
側は海が少なく、凹凸に富んだ険しい地形が多い)
月の地形図
PKT:「嵐の大洋」を中心と
する月の表側のなだ
らかな地形の地域
FHT:月の裏側の険しい高
地の多い地域(月の
最高地点がある)
SPA:月の裏側にある月面
最大の盆地の地域
(月の最低地点がある)
これらの謎を解き
明かすために必要
な探査とは?
本懇談会のテーマ
のひとつ
マントル
地核
写真:(C)NASA
固体の内核
液体の外核
核?
提供:JAXA
表側
裏側
1.月とはどのようなものか(4/4)
(2)未だに残る月の謎
6
2.これまでの月探査に関する取組(1/8)
(1)これまでの各国の月探査について
1959年~1976年までは、月は米ソによる宇宙開発競争の舞台となった。当時は国威発揚、月面有人到
着が優先され、科学的な探査は十分ではなく、月のごく一部にとどまった。(詳しく調べたのは月の表
側の赤道域から中緯度域のみ)
月探査はそれ以降十数年間行われることはなかったが、1990年代に入り、日本が次々と月探査計画
(ひてん/LUNAR-A(計画中止)/かぐや)を立ち上げ、実施。欧州、中国、インドも独自に月探査
機を送り込んだ。アメリカも月の資源探査や有人基地建設のための調査、火星有人探査への布石などか
ら数多くの月探査機を送り込んでいる。
1959年
ルナ1号(旧ソ連)が初めて地球の重力を離脱、月近傍を通過。ルナ2号で世界で初めて月面に到達(衝突)
1966年
ルナ9号(旧ソ連)が世界で初めて月面軟着陸に成功
1969年
アポロ11号(米)が月面に着陸、人類が初めて月に到達。岩石、表土のサンプルを採取して地球に帰還
1970年
ルナ16号(旧ソ連)が無人機により月のサンプルを採取して地球に帰還
1972年
アポロ17号(米)が月着陸。米国の月探査は以降中断
1976年
ルナ24号(旧ソ連)が無人機によるサンプルリターン。旧ソ連の月探査は以降中断
10数年の月探査のブランク時代
1990年
ひてん(日本)が月の重力を利用した軌道変更に成功。主目的は工学実験機。1993年に月面衝突
1994年
クレメンタイン(米)打ち上げ。1996年に電波による観測で、月の南極に氷がある可能性を発見
1998年
ルナプロスペクター(米)打ち上げ。クレメンタインとは別の手法(中性子測定)により氷の存在の可能性を示唆するデータ
を取得。1999年に南極に落下し、巻き上がった土壌を地球から観測したが、氷は確認できず
2003年
スマート1(欧州)打ち上げ。鉱物資源の調査などを実施し、2006年に月面衝突
2007年
かぐや(日本)打ち上げ。重力や鉱物の調査などを実施し、2009年に月面衝突
嫦娥1(中国)打ち上げ。鉱物の調査などを実施し、2009年に月面衝突
2008年
チャンドラヤーン1(インド)打ち上げ。月表面の鉱物・化学組成の観測などを実施中
2009年
ルナリコネッサンスオービター(米)打ち上げ。月の水分の探索、地形調査等を予定
米ソ
の
宇
宙開発競争
技術実証
探査規模
小
日欧
の
参
画
シリ
ー
ズ
の
計
画
本格的な
探査
中印
の
参
画
7
2.これまでの月探査に関する取組(2/8)
(2)アポロ計画について(1/2)
アポロ計画は、1961年から1975年にかけて行われた、人類を月面に到着させることを目的とした米国
の宇宙飛行計画。この計画を達成するために、有人宇宙船やそれを打ち上げるための有人ロケットを開発。
アポロ計画では、のべ40万人、総額約200~250億ドル(現在の価値では1000億ドル以上)を投入し
たと言われており、27人を月へ送り、そのうち12人が月面に降り立った。
月面での滞在時間は、6回の月面着陸ミッション合計で約12.5日。短い滞在時間の中で可能な限り観測
や調査が行われ、約400 kgの月の石、砂が地球に持ち帰られている。
資料出典:(C)NASA
総額約250億ドルを投入(最盛期には、米国政府予算の約2.5%に
相当する年間約30億ドルを投入)したと言われている。開発途中に
人的な犠牲も払うこととなり(アポロ1号)、また、運用段階でも危機
的な状況にも遭遇(アポロ13号)。
アポロ計画では、全て月の表側の中低緯度地域に着陸。
アポロ着陸地点
月着陸
1971年1月
14号
●▲
月着陸
1971年7月
15号
●▲
月周回
1970年4月
13号
●
月着陸
1972年4月
16号
●▲
月着陸
1972年12月
17号
●▲
月着陸
1969年11月
12号
●▲
月着陸
1969年7月
11号
●▲
地球周回軌道、月着陸機の有人試験
1969年3月
9号
●
地球周回軌道、宇宙船有人試験
1968年10月
7号
●
月着陸機の機能試験
1968年1月
5号
○
月周回、全機能試験
1969年5月
10号
●
月周回、宇宙船有人試験
1968年12月
8号
●
宇宙船の機能試験
1968年4月
6号
○
ロケット試験・宇宙船帰還試験
1967年11月
4号
○
○:無人飛行
●:有人飛行
▲:月着陸
1号は事故、
2号、3号は欠番
8
アポロ計画を進めることにより、宇宙開発そのものだけでなく、その周辺の広範囲にわたる技術や信頼性、
特にシステム工学と呼ばれる分野の発展がなされた。NASAは、多岐に亘る固有の技術レベルを最大限に
高めつつ、全体として統制の取れた最適な状態を実現するためのシステム工学を確立することで、この巨
大なプロジェクトを成功させたと言われている。その他、アポロ計画にインスパイアされて、理科系の学
生が増加するなど、当初の「月まで行って帰ってくる」以上の大きな成果が残されたと言われている。
また、アポロ計画に使われた誘導コンピュータが、LSI等の半導体の発展に大きく寄与するとともに、燃
料電池、フリーズドライ食品、形状記憶合金、デジタル画像技術等現代社会の技術基盤の発展を加速した。
計画に投じられた巨額の資金による経済的効果に加え、大きな経済波及効果があったと言われている。
●アポロによるスピンオフ事例
【LSI等の半導体】
アポロ計画による小型・軽量の誘導コンピュータの発展はLSI等の集積回路技術の進化に寄与し、同時期に行われていた
ミニットマンミサイルでは量産化技術の向上に寄与。これらの計画が1960年から1963年まで生産されたICをほぼ全て
買い取り、製造技術の向上により製品価格が1/40になって、それ以外の需要が生まれることになったと言われている。
【燃料電池】
家庭用や自動車の発電動力源として利用が見込まれている燃料電池は、NASAのアポロ計画の宇宙船に搭載された。直
ちに普及することはなかったが、1990年代以降の燃料電池開発に大きなインパクトを与えていると言われている。
【長期保存食品】
NASAの本格的な宇宙食の研究開発により、お湯を入れて戻して食べるフリーズドライ製法という技術が生み出された。
【形状記憶合金】
月着陸船開傘式アンテナに利用されるようになり、実用材料として注目を集めた。現在では様々な身近な商品に利用され、
その市場規模も大きい。
【先進医療機器】
月や近傍宇宙の画像処理に必要となる、デジタル信号処理、画像技術の研究開発によりCTスキャン及び磁気共鳴画像(M
RI)の革新的医療機器の誕生を促した。これらの機器により、切開等痛みを伴う方法を使わずに人体内部の状況を短時
間で診ることができるようになった。
2.これまでの月探査に関する取組(3/8)
(2)アポロ計画について(2/2)
9
2.これまでの月探査に関する取組(4/8)
(3)これまでの我が国の月探査の取組
平成2年(1990年)に打ち上げた月探査機「ひてん」により、米ソに続く月周回・月面
到達を達成した。
平成19年(2007年)に打ち上げた「かぐや」では、月全表面の鉱物分布/元素分布、
磁場のこれまでにない高精度な観測や、世界で初めて月の裏側を含む重力の全球観測を
行うなど、同時期に打ち上げられた中国、インドの探査機と比較しても、これまでの最
高性能の月探査を行った。
現在、将来の月探査に向け、観測装置を月に貫入させるためのペネトレータの技術蓄積
や、月面着陸技術、約15日間の夜を乗り切るための越夜技術、月面を移動し、観測す
るためのローバの技術、地球への帰還技術などの研究を進めている。
また、小惑星探査機「はやぶさ」では、探査機を小惑星へ高精度で誘導・制御する技術
を確立しており、将来の月探査にも活かされる。
ひてん・はごろも
(月周回軌道への投入)
かぐや
(月周回からの観測)
ペネトレータ
10
○全球の詳細な地形図を作成 (最高地点は10.75km、最低地
点は-9.06kmで、高度差は従来考えられていたより2km以上大き
かった)
○月の裏側の重力異常を初めて明らかにした
(月の盆地の重力異常は、月の内部構造や進化に強く関連し
ていることが推定される。重力異常は、平均重力の0.1%程度)
○月の裏側でのマグマ噴出の長期
継続を発見
(月の裏側の火
山活動は、30億
年前ごろには終
わったと考えら
れていたが、少
なくとも25億年
前まで内部活動
が継続していた
ことを発見した)
○月の表側の海の
部分の地下数百
メートルの深さ
に層状構造があ
ることを発見
(2回の火山活動に
より海が二層構造
になっていると推定)
○その他
・1年中日が当たる場所がな
いことを確認
・南極のクレータ(シャクル
トンクレータ)内表面に氷
がないことを確認
・月の日照率マップの作成
など
2.これまでの月探査に関する取組(5/8)
(3)これまでの我が国の月探査の取組(かぐやの科学的成果)
表側
裏側
11
(1)技術的成果
①月周回軌道への投入技術の確立
②月周回中の探査機の3軸姿勢制御・熱制御・
軌道制御技術の確立
③月の裏側の周回衛星の軌道決定のための通信
技術の確立
など
(2)経済波及効果
「かぐや」の開発に、延べ約3000名の衛星システム開発・地上シス
テムの開発の技術者が国内メーカーで従事し、最先端の宇宙技術開発の
ための人材育成および知識の継承に貢献した。特に「かぐや」において
は、観測機器開発などにおいて、高精度な球面形状加工技術やコーティ
ング技術など、中小企業が持つ先端技術も開発に活かされている。
(3)普及啓発
●ハイビジョンカメラによる「地球の出」「ダイヤモンドリング」、地
形カメラによる3次元動画等の国内外のプラネタリウム・科学館・教
育現場へのDVD配布(約2000箇所)
●特別番組の編成とマスコミを通じた普及啓発
(取材対応約90件。他特別番組やニュースなど)
●教育機関や、科学館などでの一般講演による普及啓発
(約200件
平成19-20年度)
●地球の出、月面画像を、小・中学校の理科教材で使用
●YouTubeによるハイビジョン映像の公開
(2008年12月から2009年3月末までの約4ヶ月間で10万回以上のアクセス)
●Google Moonへの地形データ提供
2.これまでの月探査に関する取組(6/8)
(3)これまでの我が国の月探査の取組(かぐやのその他の成果)
ハイビジョンカメラによる地球の出
地形カメラによる3次元地形画像
「かぐや」の月周回軌道
投入シーケンス
月
の
起
源
月
の
進
化
月
の
利
用
2.これまでの月探査に関する取組(7/8)
(4)月探査の主な科学的成果
アポロ
(米国)
有人着陸
クレメンタイン
(米国)
無人月周回
ルナプロスペクタ
(米国)
無人月周回
かぐや
(日本)
無人月周回
今後?
ロボット、または、 人とロ
ボットの連携による月探査
により、例えば…
高精度の地震計を各地
に埋め込み、月震を多
地点同時計測して内部
構造を解明
ルナ
(旧ソ連)
無人着陸
氷など
内部構造
中性子観測により、
極域に氷や軽元素
が存在する可能性
のあるデータを取得
電波観測に
より、氷が
存在する可
能性を発見
シャクルトン・クレータ
(南極のクレータ)の永
久影の表層には氷が
ないことを確認
月震、磁場等により
コアサイズを測定
(粗い精度)
月周回軌道の変化
などからコアサイズ
推定(250-450kM)
月周回軌道の変化の
精密計測によるコアサ
イズ推定(解析中)
地球資源に頼らない月
資源の利用可能性など
の確認
海、高地、クレータ等、
様々な特徴ある地点で
穴を掘るなどして物質
を採取し、月内部も含
めた地質構造を推定
月の裏側に着陸して物
質を採取し、表側の物
質と実際に比較分析し、
その違いの原因を解明
「マグマの海」の痕跡の
ある地点の物質の採取、
分析や月震による月の
海の底の計測等を通じ、
その構造、進化を解明
月周回軌道と月表面と
の同時観測による内部
構造の推定と、月全体の
磁場分布モデルの確立
火山活動・地殻変動の
痕跡のある地点の物質
の採取、分析により、そ
の生成プロセスを調査
磁気を帯びた石の
発見により、かつ
て月に磁場があっ
たことを示唆
赤道域の岩石や表
土(レゴリス)の調査。
岩石の年代の決定、
表土の成分分析(酸
素、金属、水素、ヘ
リウム)など
質量中心と形状中
心がずれていること
を発見
マグマの中で生成
する斜長岩の採取
により、「マグマの
海」の仮説
岩石の特徴調査。
年代推定
(分解能100m-)
鉄やチタン
に富む地域
の発見(分
解能100m-)
初の全球磁場観測
地形でなく物質に
より表裏の特徴を
分類
鉄、チタン、放射性元
素の分布の測定
(分解能:数10km-)
全球の磁場観測を1
桁以上高精度で実施
斜長石、かんらん石
などの鉱物の全球分
布取得、ウランなど
放射性元素やアルミ
ニウムなど主要元素
の高精度分布観測
裏側重力の直接観測、
地形、高度分布の高精
度測定、質量中心と形
状中心の差の測定
全球に亘り、純度の
高い斜長岩の分布を
計測。「マグマの海」
の存在の裏付け
裏側での火山活動の
長期継続を発見。月の
冷却による褶曲(地層
の曲がり)を発見
無人着陸
機により
表土を採取
して帰還
(成果不明)
月の裏側を
初めて撮影
マグマの海
(地殻形成)
表裏の違い
(二分性)
物質
磁場
(初期のコア溶融)
火山活動
地殻変動
12
13
○物質・エネルギーの利用:
月にある物質を宇宙探査に活用
→必要な物を現地調達する技術の獲得は,地球資
源に頼らない宇宙開発利用への転換
- 酸素
月の表土(レゴリス)は金属
酸化物であり重量の4割は
酸素。還元により抽出可能。
- 金属
酸素抽出の副産物として、
鉄、チタンを得ることが可能。
また、シリコン、アルミニウムなども豊富。
- 水素、水
太陽風に含まれる水素が表土(レゴリス)に付着。
また、極域の永久影の地中には彗星由来の氷が
存在する可能性。
- ヘリウム3
太陽風に含まれ表土に付着。核融合発電の燃料
○場の利用:
月を人類の新たな活動の場所として活用
-月面低周波電波天文台
月の裏側では、地上の人工電波源
などの影響が無く、地球上では困難
な10MHz以下の低周波の電波観測
が可能
・月面重力波天文台
月面での真空、地球に比較し振動の少ない環境を利
用し、地球上では困難な、安定した大型の重力波観測
設備(重力波検出用レーザ干渉計)を構築可能
・宇宙医学・生物学のデータ取得
宇宙放射線による影響や1/6G
の生物への影響の把握が可能
・探査技術の実験場
火星探査に向けた技術実証の
場として活用可能
・観光地としての利用
現在の技術で、観光として現実的な期間(1週間程度)
で往復できる唯一の天体
ダスト環境計測
日照・日陰環境
放射線計測
温度環境計測
地盤特性計測
物質調査
今後、上記のような利用の可能性を明らかにするためには、
様々な視点からの調査が必要。例えば・・・
○物質と場の利用: - 月面活動拠点
レゴリスを焼き固め天文台や実験場などの建築材料、放射線防御壁に利用
- 月面発電所
月面の豊富なシリコンで太陽電池を製造。月に敷き詰め地球に送電する構想も
2.これまでの月探査に関する取組(8/8)
(5)月の利用の可能性
14
○ 米国(NASA 米国航空宇宙局):
・ ブッシュ政権では、新しい有人宇宙船の開発、有人での月再着陸、有人火星探査等を目標とする
宇宙探査構想に基づく計画が進んでいた。オバマ政権では、探査構想の中核をなすNASAの有人
宇宙飛行計画について「米国有人宇宙飛行計画再検討委員会(Review of U.S. Human Space Flight
Plans Committee)」を設置し、再検討を行っている。スペースシャトル引退後の安全で革新的か
つ適正な予算で持続可能な、有人宇宙飛行計画に関する選択肢等を検討中であり、2009年8月末ま
でにその検討結果が取りまとめられる予定。
・ 上記再検討の結果により今後の計画、国際調整などに影響があると想定されるが、これまでの
米国の動向については、概ね以下括弧内のとおり。
・これまで、ブッシュ政権時代の宇宙探査構想に基づき、今後の探査計画について、国際宇宙探査協働
グループ(ISECG:16ページ参照)の枠組みに加え、ESA、JAXA等との協力に向けた2国間調整を
行ってきている。
・これからのISS(国際宇宙ステーション)の利用計画の一つの柱として、ISSを将来の探査プログラ
ムのための技術実証の場として利用することを構想中。
・有人月面拠点にむけた無人月探査として、2009年6月にLRO(ルナリコネッサンスオービター :着
陸地点の決定、資源調査、月環境調査)及びLCROSS(永久影域の氷の存在調査)を打上げ実施。
今後、LADEE(ダスト(塵)観測)及びGRAIL(重力場計測。着陸地点決定の精度向上に貢献。)
を予定(2011-12年頃)。
・ILN(国際月ネットワーク)構想(※)に、各国へ参加を呼びかけ、 現在8機関が関心表明。
※
月面に6-8箇所の観測ポイントに観測機器(月震計や熱流計)を設置して科学観測を行うもの。
8機関:ASI:伊、 BNSC:英、 CNES:仏、CSA:加、 DLR:独、 ISRO:印、 JAXA:日、
KARI:韓。左記のほかCNSA :中もオブザーブ参加
○欧州(ESA 欧州宇宙機関):
・2030年頃の有人火星探査を最終目的とした「オーロラプログラム」の前段として、月への無人着
陸機(MoonNext等)や有人月探査の検討を行っている。
・有人月探査に関しては、将来の有人宇宙飛行及び探査における欧州の役割を分析するためのシナ
リオ検討等が行われており、 ISECGの枠組みにおいて積極的に活動中。また、NASAとの協力に
向けた、2国間の話し合いも進めている。
3.月・惑星探査に関する海外の主な動向(1/3)
15
○ 中国(CNSA 中国国家航天局):
・独自の月探査計画(嫦娥(じょうが)計画、有人月探査)を進めている。2007年に嫦娥1号の打
ち上げ実施。2011年迄に嫦娥2号による月周回、2012年迄に月面着陸、2017年に月面サンプル回
収、2030年に中国初の有人月探査、 2040年に有人の月面短期滞在、 2050年に有人火星探査を計
画中 。
・月探査の目的として、国威発揚と、将来の資源利用を念頭に置いている模様。
○ インド(ISRO インド宇宙研究機関):
・無人月探査計画として、チャンドラヤーン1号(2008年:月周回)、同2号(2013年頃:着陸予
定)を展開中。国際協力により月探査を実施(1号には欧米センサを搭載、2号では月面探査車
をロシアが開発)。
・宇宙飛行士3名が搭乗可能な有人宇宙船の開発も計画している模様。
○韓国(KARI 韓国航空宇宙研究所):
・2007年11月に決定された「宇宙開発プロジェクト詳細ロードマップ」の下、2020年までに月探
査衛星1号機(周回機)を、 2025年迄に月探査衛星2号機(着陸機)の打ち上げを計画中。
・また、 2008年8月6日の韓米首脳会談で、米国との宇宙探査や宇宙科学分野での協力強化に合意
したことで、米国のILN 計画への参加に積極的。
○ ロシア(ROSCOSMOS ロシア連邦宇宙局):
・ソユーズに替わる新型有人宇宙船(低軌道用)を計画中。
・有人月面拠点については、ISECGに参加しつつ、様子を見ているところ。
・無人月探査に関しては、ペネトレーターを搭載するluna-globや月面探査車(印との協力)等を
計画中。
○イギリス(BNSC 英国国立宇宙センター ):
・探査への関心はあり。オーロラプログラムが主。
・無人月探査では、NASAと協力しつつ、ペネトレータを積んだ月周回機(MoonLite)、着陸機
(MoonRaker)を計画。
3.月・惑星探査に関する海外の主な動向(2/3)
16
○ 多国間国際協力の動向:
<国際宇宙探査協働グループ>
・ブッシュ大統領の宇宙探査構想の発表を契機として、米国が世界の宇宙機関に対し国際協力を呼び
かけ、 2006年、14宇宙機関(日本はJAXA)による国際探査戦略(GES)の検討が開始された。
その協働活動の枠組みとして、国際宇宙探査協働グループ(ISECG)が設立(インドを除く13宇宙
機関が参加) 。
・国際約束のような強制力を持った作業分担ではなく、各国の独自性を発揮しつつ、全体として整合
性のあるプログラムの構想を目指す緩やかな分業が志向されており、主として国際協働の調整の場
として活用されている。
・現在、各国において探査シナリオ等の検討活動が行われており、2010年6月頃を目処に、今後の検討
にあたって参照すべき共通の国際探査構想のとりまとめが行われる予定だが、米国の有人宇宙計画
の再検討の影響を受けるものと思われる。なお、会合には、各宇宙機関長の出席が求められている。
GES14宇宙機関: ASI(イタリア宇宙機関)、BNSC(英国国立宇宙センター)、CNES(フランス国立宇宙研究センター)、
CNSA(中国、国家航天局)、CSA(カナダ宇宙庁)、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)、DLR(ドイツ航空
宇宙研究センター)、ESA(欧州宇宙機関)、ISRO(インド宇宙研究機関)、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、KARI(韓国
航空宇宙研究所)、NASA(米国航空宇宙局)、NSAU(ウクライナ国立宇宙機関)、Roscosmos(ロシア連邦宇宙局)
GES: Global Exploration Strategy / ISECG: :International Space Exploration Coordination Group
3.月・惑星探査に関する海外の主な動向(3/3)
○ カナダ(CSA カナダ宇宙庁):
・2008年に探査計画(Exploration Core Program)を開始し、概念検討等を実施。2009年には月・
火星の探査車のプロトタイプ開発等に向けて予算面も含めて探査計画下の活動が活発になる様子。
・将来の探査プログラムでは、ISS計画等での実績をベースにロボティクスを中心にカナダ独自の
技術貢献をすることを目指しており、有人月面拠点構想に対しては、カナダ人が月面到達するた
めの協力調整(探査車、資源利用、軌道上サービス等)をNASAと開始している様子。
・ISS計画では、有人宇宙技術(特に宇宙飛行士の搭乗、医学関係研究等)とカナダアームに代表
されるロボティックスを中心に取り組んでいる。